大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)4312号 判決
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〔判決理由〕<前略>三、そこで被告のなした弁済が準占有者対する弁済に該当するか否かについて検討する。
<証拠>を総合すると、原告はガローの代表者堀田栄一の紹介で自社製品のカシミロンを被告に売ることになり、昭和四四年二月頃から取引していたこと、その後同年一〇月頃ガローの代表者の右堀田は原告の資金面および商品導入面の面倒をみることになり、原告の代表者はそのために帳簿および会社印、代表者印等を右堀田に交付したこと、右堀田は同四五年四月一三日原告を代理して被告から売掛代金を受領しようと企図し、手持ちの原告の会社印、代表者印、同ゴム印を使用して原告名のみの委任状(乙第一号証)を作成し、持ち合わせた原告代表者の印鑑証明(乙第三号証)を共に持参し被告会社に赴き、同会社々員古川弘実および松田昭夫にこれを呈示して本件売掛代金の支払を求めたこと、これに対し被告会社の審査部の松田昭夫は右委任状の真正を証するための資料の追加を求めたところ、右堀田は原告会社振出の約束手形一通(乙第二号証)を持参したので、右松田はこれら三通の書類を照合調査し、右堀田に原告の代理権限ありとして同年四月一六日に本件売掛代金を支払つたこと、右委任状の作成日は同年四月一三日となつており、右印鑑証明の発行の日は同四四年一一月二六日であり、右約束手形記載の振出日は同年同月二〇日であること、が認められ、原告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照してにわかに措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実にもとづいて考えると、右ガローの代表者堀田の被告に対する本件売掛代金の取立ての行為は、一般取引の観念において債権者である原告の代理人であると信ぜしめうべき事由に基づいて債権を行使したものというべく、これに対する被告の弁済は民法四七八条所定の債権の準占有に対する弁済にあたるものといわなければならない。なお、右堀田の債権の行使は代理形式をふんだものであるが、このことは右堀田を債権の準占有者にあたるというに妨げとならない。また、右堀田の委任状作成が原告の正当な授権にもとづくものであると断定できないので、あるいは偽造の疑いがないではないが、仮にこれが偽造による委任状であるとしても、そのことは債権の準占有を認定するに支障とはならない。
四、そこで、原告の再抗弁の成否を検討する。
民法四七八条には弁済者の過失の場合の例外規定が明定されていないけれども、同法四八〇条と対比して考えるとき両者の制度の趣旨に照し両者異如に解するべき理由がなく、かつ、具体的利益衡量の面からみても、過失ある弁済者を保護することは一般社会通念上許されないので債権準占有者に対する弁済の効力阻害事由として過失を掲げることができる。そこで、被告の前記弁済が過失にもとづくものであるか否かについて検討するに、前段認定のように、本来原告と被告との取引がガローの代表者前記堀田の紹介によつてなされたこと、他ならぬその堀田が委任状と印鑑証明書および原告振出の約束手形を呈示して支払を求めたこと、委任状と約束手形とで原告会社名、代表者名のごム印部分が相異しているが最も重要な代表者印は同一でありかつ印鑑証明書所掲の印影とも合致すること、印鑑証明書の発行日および約束手形の振出日が弁済を求めた日より五ケ月足らず前であることなどを総合して検討するとき、弁済に先だつて被告が原告に照会しなかつたことを考慮に入れても、被告に弁済につき過失があつたとは断じえない。また、その他被告の過失を証するに足りる証拠は存しない。<後略>
(東孝行)